僕はよく物を無くす。
スマホはもとより、どうやったらそんなものが無くなるんだというものまで無くしてしまうことがある。先日は大事にしていた40年ものの革ジャンを無くしてしまった。1月末から行方不明のこの革ジャンを見つけようと僕は必死だった。僕はありとあらゆる場所に頭を巡らせ、焚き火をした海岸や野営をした溜池を探した。ここ1ヶ月の間に行った店にしらみつぶしに連絡し、時に何者かが盗んだのではないかと考えて激昂したりもした。
思えばあの革ジャンとの出会いは、僕がバイクに乗りはじめた18歳の頃だった。大学の教養科目English Aの講義で僕はべゴール・ベッティーナ先生のクラスに振り分けられた。僕は大変熱心にこのクラスを受けていた。べゴール・ベッティーナは185センチの女性で、彼女が大学生のころホンダの大型バイクに乗っていた。
「Is there anyone here who wants the leather jacket I wore 40 years ago?(当時私が着ていた革ジャンが欲しい者はこの中にいるか)」
「I want it.(欲しいです)」
僕はそう言って、ベッティーナから革ジャンを貰い受けた。革ジャンは所々ボロボロだったが、大変かっこいい。コインをポケットに入れようものならば、二度と出てくることはない。内側はビリビリに破れているからだ。まさにビンテージアメリカン。10万で譲って欲しいと古着屋のオーナーに言われたこともある。とにかく18の頃から8年間僕はこの革ジャンと共に過ごしていた。そんな革ジャンがなくなってしまったのだから、とんでもないことだ。でも今日うちの縁側を歩いていたら、おもむろに洗濯カゴにぐしゃっと突っ込まれていた。なんてことだ、まさに灯台下暗し。1ヶ月の行方不明が終わった。
僕もいつか誰かに昔使っていた革ジャンを引き継げるように、そろそろおニューを買って育てても良いかもしれないなと思った。