男湯の序列

少し前にふらっと市内の温泉に行った。

僕は温泉に長く浸かることはできない。温感蕁麻疹というやつで、お湯に入っていると赤い発疹が出る。かかりつけの皮膚科の先生からは、「こういうものは幽霊みたいに消えたり出てきたりしてしまうものだから、放っておきなさい」という無駄なアドバイスをもらったことがある。10分ほどお湯に浸かって出てきたプツプツは湯から上がって体が冷めるとなくなってしまう。まさに幽霊みたいなもので、出てきたり消えたりする。体ってのはとても不思議だ。

5人のおじさんと僕が風呂で汗を流すなか、1組の親子がやってきた。やんちゃそうな坊主の小僧と、真面目そうなお父さん。やんちゃな坊主はキャッキャしながらお父さんに体を洗ってもらい、それが済むと堰を切ったように遊び始めた。湯船に飛び込み、お父さんに遠くから叱られる。そして怒涛のバタ足。小学校の頃から水泳を習っている僕から言わせてもらうとお粗末なバタ足だったが、彼に水泳の才能があるのは明確だった。僕は温泉で子供がはしゃいでいる様子が気にならないタイプだ。

小僧は水泳にすぐに飽きたようで、施設内を冒険し始めた。サウナに入ってあっちいと叫んですぐに出てきた。水風呂が冷たいとお父さんに報告をあげている。そういえば僕もあんなことをしていたような気がする。小さい頃の僕にとってサウナというのはかなり不思議な存在だった。あの頃はサウナで汗をかく爽快さも、そのあとに水風呂で体を冷やす気持ち良さも分からなかった。今でも温感蕁麻疹でブツブツが出るので、あまり長くはいられないけど。

ここで小僧が恐ろしい遊びを始めてしまった。純粋無垢な子供ほどに恐ろしいことをする。そこに悪意は全くない。

小僧は体を洗うおじさんの横に歩いて行ってチンチンをチェックすると、大きな声で「ちっちゃい!」と言った。また別のおじさんの所に言って「大きい!!」と言った。お父さんは「すみません!!やめなさい!!」と慌てている。小僧はそのままおじさん達のチンチンチェックを続けて、「めちゃ大きい!」「でっかい!」と続けた。僕ともう一人のおじさんは湯船に浸かっていた。僕は笑いをこらえるのに必死だった。お父さんはひたすらに謝っており、不憫で仕方がなかった。僕だったら知らない子供のふりをするかもしれない。すみませんというのも失礼な場合がある。僕の息子が小さいものに小さいと言ってすいません、みたいな感じになるからだ。大きいと言われて悪い気はしない。しかし小さいと言われた最初のおじさんなどは後生この問題で心を痛めることになるかもしれない。ここで一度結果をまとめる。

  • おじA ちっちゃい
  • おじB 大きい
  • おじC めちゃ大きい
  • おじD でっかい
  • おじE ?
  • 僕   ?

デカイと大きいという言葉は難しい。語源にまで遡るならば、デカイの方が大きいはずだが。問題は小僧の用いた「でかい」と「めちゃ大きい」をどう判断するかだが、僕が見て確認すればいい。二人のおじさんの息子達をチラリと一瞥する。うん、おじCの勝ちだ。小僧にとっての「めちゃ大きい」は、デカイに勝るらしい。余談だが、現代ではこのデカイと大きいの意味はほぼ同じものになっている。

小さな坊主の政治家は、平和で平等だったこの温泉の男湯に突如としてカースト制度を導入した。今この男湯の頂点に君臨するのはおじCだ。この制度によって、なんだか偉い人に見えてくるから不思議なものだ。権力や地位というものが、人の印象に大きく影響するということを改めて認識することができた。今日の男湯は実に哲学的だ。

僕は蕁麻疹が出るのも我慢して、湯に浸かり続けた。あの小僧がいる状態で湯から上がるのはあまりに危険だと判断したからだ。股間を隠して上がればいいと思うかもしれないが、このシーンでそれは下策中の下策。遠回しに私は一番格下ですと言っているようなものだ。だからせめて中立でいたかった。もう一人のおじさんは好きで長風呂していますよというような顔をして浸かっているが、本当は戦々恐々としていたに違いない。僕たちは親子が脱衣所に行くまでの短い時間をじっと湯船に浸かっていた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です