一本締めで死にそうになる

最近モーニングルーティンの動画をyoutubeでたくさん観ている。一般人の朝の生活を切り取った感じの動画だ。一般人の朝の様子なんて誰が興味あるんだと思うが意外に面白い。インスタ映えの時代から世の中はchill方向にシフトした。映えという言葉は実はもうかなり古い。そこらへんのおっさんや企業が使っているのが良い指標になる。chillという言葉は落ち着くとか、哀愁のあるというような意味で使われる。憧れのキラキラした生活よりも、ほどほどに生活感がある哀愁漂う生活の方に目を向けられるようになったということだ。

今日から僕は地獄の早起き習慣に突入した。母親が一週間ほど韓国に行ってしまってアニョハセヨ状態なので、妹の送り迎えをしなければならない。起床時刻は驚愕の7時だ。10時起床を常としている僕にとっては苦行でしかない。

そんな僕の今日の朝を切り取る。まずは餅だ。1300wのトースターで餅に熱を加える。2~3分で餅が膨れてくる。僕はそれをぼんやり眺めながら、コーヒーを淹れようとするが、7時の僕にそんな能力はない。水道水で済ませる。コーヒーも水もそれほどには変わらない。そういえば毎日飲むはずのビタミンを今飲み忘れたことに気づいた。餅は柔らかい部分を食べて、膨らんだパリパリの部分は捨てる。意味があるのは柔らかい部分だけだ。パリパリに特に意味はない。

足に貼るカイロがあったので、みぞおちと肩甲骨の間に貼りつける。窓際で雪を眺める猫に挨拶をして僕は家を後にした。

辺りはすっかり雪に覆われていた。僕は妹を助手席に乗せ車を走らせた。そういえば助手席の人に助けられた経験はあまりない。ペットボトルの蓋を開けてくれる人は個人的に大好きだ。僕は助手席という言葉の由来について知っているので語らなければいけない。エンジン車のタクシーが登場し始めた大正時代、世の中の人はまだまだ着物を着ていた。そんな人たちのタクシーの乗降を助ける助手さんが当時のタクシーには乗っていた。そのため現在でも助手さんの座っていた位置を助手席と呼ぶのだ。

僕は今年初めての雪道にドキドキして「犬は喜び庭駆け回る、猫はこたつで丸くなる」とテノール歌手風に歌いながら運転していた。僕は我ながら陽気なドライバーだと思う。そんな中で一本締めの話になった。一本締めの話の中で、僕は提案として一般的な「よーーー」の3倍ほどの長さの「よーーーーーーーーー」の掛け声の後にパンと手を叩いた。一瞬の出来事だった。走っている車が轍を外れ、対向車線に滑り始める。慌ててハンドルを切ると、今度は左側の溝に落ちそうになる。僕は久しぶりのスリルに興奮しながら車体を立て直した。ふうと一息。妹はスマホでインスタを見ていた。この一大事の中顔色ひとつ変えないのは素晴らしいことだと思う。

僕の妹といえば、極上の彼氏を持っている。彼は普通の人なら恥ずかしくて言えないような甘い言葉をかけることができる。毎日毎日好きと言うらしい。まるで外国人だ。そんな彼がある日聞いてもいないのにこう言ったらしい。

「僕が君を嫌いになるなんて、太陽が西から登るくらいあり得ないよ」

そんな甘い彼氏に対して妹は質問をする。

「太陽ってどっちから登るんかいな??」

「えっ東だけど」

一見するとおバカな彼女とロマンティックな青年だが、果たしてそうだろうか。通常であればヤケドしてしまうような彼氏の発言を意図的にボケで包み込んだのではないだろうか。そう考えると、一連のやりとりが大変に高度なコミュニケーションだと思えてきた。彼の甘い言葉を無視することなく、それでいて彼の知識を立てながら、第三者が聞いていてクスッとくるようなやり取りに仕立てあげている。さすがとしか言いようがない。

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