商売をしてみると、分からないことがたくさん出てくる。分からないことがあるたびに、僕は調べて実行する。僕の記憶が定かならば、僕は経営学部を卒業したはずだ。これでは完全に2度手間だ。商売をしてもいない人が経営学部に入って学んだってなんの意味もないと実感した。恋してバイトして飲み会して寝るだけの不真面目な大学生にマーケティングの知識など、豚に真珠もいいところってわけだ。一生懸命資本主義を学びながら、進んで労働者サイドになるんだから面白いものだ。僕も早く勉強しながら色々やってみるべきだったように思う。
そんなこんなで、経営に係る分からないことが出てきたものだから図書館に向かった。調べてみれば大変に簡単なことだった。僕は何冊かの行動心理学の本を借りて、図書館を後にしようとした。書棚の間ですれ違った綺麗な司書さんの髪に、大きめの埃が二つ付いてしまっていることに気が付いた。僕は帰り道からくるっと方向転換をして、もう一度書棚の周りを回った。間違いない、埃だ。さらに渾身の早歩きでもう一度周回。僕の早歩きの風圧では埃はピクリとも動かない。残念だ。
こうなってしまってはもう気になって仕方がない。僕は一度気になると気になって仕方がない病だ。しかしながらこのまま書棚を回り続ければ、怪しげな男だと思われてしまう。僕は一旦興味のない本を手に取った。森林の仕事という本だった。一度件の書棚から離れ「人前で変に緊張しなくなるすごい方法」という本を読んだ。目次を見て重要箇所のみをじっくり読むという、オリジナルの速読法を用いて解決法を探す。著者は物事を重大に捉えるから緊張すると言っている。真面目で責任感が強い人ほど緊張しやすいということだ。当たり前のこと言ってんじゃねえよボケカスと心の中で悪態をつく。
このままでは埃問題が一向に解決しない。僕は出来るだけ賢そうで分厚い本を四種類ピックアップし、脇にホールドした。これによって、賢そうな男をさらりと演出。気持ちがすっきりしたため、声をかける。
「すみません、ここに埃が付いてしまっています」
「あーすみません!!(取ろうと努力)これで取れましたか?」
「いえ、取れていません」
「申し訳ありませんが、取ってもらっていいですか??」
ここでキョドってしまえば、脇に4冊保持している分厚い本の演出が無意味になる。僕は勇気を振り絞って手を伸ばした。埃は二つ。上から除去し、下へと向かう。分厚い本のホールドによって右腕が悲鳴をあげる。ミッションコンプリート。証拠として埃を司書さんに提出。
「ありがとうございました」
「いえ、それでは」
完璧だ。まさに完璧な対応。
僕は分厚い本を返却後、突如として襲ってくる尿意に冷静に対応。トイレで社会の窓が開いていたことに気づく。しかし慌てない。鏡で確認すると今日の僕の上着は完全に下半身の開口部を隠しているからだ。ありがとうモンベルのウィンドブレーカー。しかしこれではうまく話がオチないじゃないか。